経産省推しの「ロカベン」、使い方を考えて活用すると意外といいかも
「ロカベン」をご存知でしょうか。
経済産業省がが推奨する「個別企業の経営状態を把握するための『ローカルベンチマーク』」のことです。
このフレームワークを上手く使ってみてはどうでしょうか?というお話です。
- 1. 「ロカベン」の概要・・どんな特長があるでしょうか?
- 1.1. ローカルベンチマークという名前の意味
- 1.1.1. 「ローカル」と「ベンチマーク」?
- 1.2. このフレームの特長は大きく4つあると思います
- 1.2.1. 補助金申請のフォーマットにもなる
- 1.2.2. 同業種企業のレベル感と比較して評価可能な財務分析
- 1.2.3. 戦略策定の要点のヒントが得られる
- 1.2.3.1. 「知的資産」がポイント
- 1.2.3.2. 経営者についても
- 1.2.3.3. 各種「戦略要素」についてもバランスよく目配り
- 1.2.4. コミュニケーションツールとして使うことを前提
- 2. もちろん「ロカベン」だけで十分なわけではありません
- 2.1. どんな効果があるのか
- 2.2. 「で、どうする」がないと先に進まない
- 2.2.1. 「それでどうする?」は自動的には出てこない
- 2.2.2. ダメな内情までは考慮に入りきらない
- 2.2.3. 実際の成果につなげるには、ロカベンの分析・検討を土台にアクションにつなげていくのが大事
- 3. ロカベンをもっと活用するために
- 3.1. 非財務情報から戦略やビジネスモデルの「ヒント」をたくさん獲得する
- 3.1.1. ①業務フロー
- 3.1.2. ②商流
- 3.1.3. ③4つの視点
- 3.1.3.1. 経営者への着目
- 3.1.3.2. 事業への着目/企業を取り巻く環境・関係者への着目
- 3.1.3.3. 内部管理体制への着目
- 3.2. ヒントを組み合わせて「戦略」にしていく
- 3.2.1. いろいろ気付いたことやアイデアなんかを組み立ててこれからの展開のための「戦略」としてまとめていく
- 3.2.2. もっとコミュニケーションを
- 3.2.3. 客観的な目で見てみることが重要だし手っ取り早い
- 4. 一旦、まとめ
「ロカベン」の概要・・どんな特長があるでしょうか?
ローカルベンチマークについてですが、経産省のサイトとかでしっかり解説されていますので、ここでは概要のそれもごく一部だけお話しするに止めますね。
ローカルベンチマークという名前の意味
「ロカベン」ってテキトーに略して言ってるわけではありません。経済産業省が自分で「通称『ロカベン』」と言ってるので、そう呼んで欲しいみたいです。
そのままだったら確かにちょっと長いですね
「ローカル」と「ベンチマーク」?
なぜ「ローカル」かというと、このスキームが「地域企業が付加価値を生み出す」ことを目的にしているからなんでしょうし、「ベンチマーク」は「指標」とか「基準」という意味です。
地域ごとの中小企業が同業他社の経営指標を参考にしていろいろ改善していくために役に立つものをつくろう・・という意図なんだと思います。
ぶっちゃけ、内容とネーミングがいまいち合ってない気がするけど、まあええかな。
このフレームの特長は大きく4つあると思います
経産省の解説とは違うかもしれませんが、私はロカベンの特長は次の4つだと思っています。
補助金申請のフォーマットにもなる
これはお役所の旗振りならではで、このフォーマットに沿っていればいくつかの補助金等申請の際の提出資料に使えます。
実際の経営に役立つ分析・検討資料として機能しながらも、そのまま公的な申請にも使えるという・・一石二鳥になっています。
これまでもいろいろと経営や事業について分析・検討するツールはありましたが、補助金や助成金の申請と連動しているとなると活用してみようという動機になりますね。
同業種企業のレベル感と比較して評価可能な財務分析
分析指標自体はごく一般的なものですが、「ベンチマーク」というだけあって、「同業種企業のレベルはどれぐらいか」という「基準」が用意されていて、比較したり評価したりできます。
もちろん、これまでも業種別の指標レベルは把握できましたが、探してくるのって面倒でしたよね。
しかも「この指標が重要」と「6つ」に絞ってくれているのがありがたいです。そうでないと、あれもこれもと指標を算定しただけで満足して終わってしまいそうでしたから・・。
戦略策定の要点のヒントが得られる
ここが一番重要なポイントです。
「非財務情報」では、「提供価値」「ビジネスモデル」「リソース」「マネジメント」などの戦略や計画策定・改善のヒントになることがたくさん検討事項として挙げられるような仕掛けになっています。
特に「差別化ポイント」や「顧客に選ばれる理由」といった戦略策定の要点が検討されるようになっています。
「知的資産」がポイント
この「ロカベン」のベースになっている概念の一つに「知的資産」というのがあります。
知的資産はいわゆる「無形資産」のイメージです。
「無形資産」と言っても、一般に挙げられる「知財」や「ブランド」だけでなく、「ネットワーク」や「顧客(基盤)」など「使えるものは幅広く考えるべき」ことを示唆しています。
これはこのサイトで「資源(リソース)」を捉える際の考え方に近いものとなっています。
経営者についても
非財務情報に「4つの視点」の1つとして「経営者への着目」があって、経営者の持つビジョンや経営哲学なんかもチェック項目になっています。
中堅・中小企業の場合「経営者がどうか(イケてるか否か)」の影響は多大です・・というかそれに尽きると言ってもいいかと思います。
そんな「触れにくいかもしれないけど最重要」な事項にもしっかり目を向けています。
各種「戦略要素」についてもバランスよく目配り
「4つの視点」ではその他、社内のリソースの状況(強みや弱み)、事業環境の状況、競合の状況など戦略要素となるものがバランスよく検討されるようになっています。
このサイトでも「主要な戦略要素」として捉えているので参考にしてみてください。
コミュニケーションツールとして使うことを前提
「ガイドブック」にもあるとおり、ロカベンは「対話のための共通言語」として機能させることを意図しています。
経営者と従業員との対話、会社と支援機関、金融機関、各種団体との対話といった社内外でのコミュニケーションに役立てることに意味があるということです。
これはとても大事なことです。「戦略」や「計画」に関する事項は「一部の人」によって「作られたらおしまい」なのではなく、継続的にコミュニケーションの材料となっていくことではじめて実現していくものだからです。
従来は社内では(例えば定例会議の資料の様式など)社内用のフォーマット、銀行とは(例えば銀行の指定する記入用紙など)銀行用のフォーマットというふうにバラバラだったものを(ベースだけでも)一元化できると便利だと思います。
「ベースだけ」と言ったのは、それぞれ詳細に踏み込んでコミュニケーションしようとすると、ロカベンでは用意されていない項目やフォーマットも必要になってくるからですが、それでもコミュニケーションの「取っ掛かり」として「ロカベンのフォーマット」が共有されていれば話が早いことは間違いありません
もちろん「ロカベン」だけで十分なわけではありません
この「ローカルベンチマーク」だけやっていればOK・・というものでもありません。「健康診断受けたからもうダイジョーブ!」とはならないのと同じですね。
しかも、「きっかけツール」があれもこれもと欲張ってしまうと結局盛りだくさんになってしまって収まりもまとまりもなくなってしまいます。なので「必要最小限」に絞って構成されています。
2019年時点では「企業の認知度は13.5%、内活用したことがあるのは約30%・・全体の4%」となっています。今現在はもっと認知も活用も増えているとは思いますが、まだ十分な認知には至っていないようです。使った企業では約95%がメリットを感じているとの報告もあるため、使ってみれば何らかの効果はあるはずなんです。(第10回ローカルベンチマーク活用戦略会議 2020年2月)
どんな効果があるのか
このフレームを使って得られる効果はどんなものでしょうか。
「補助金や助成金の申請に活用できた」というのは当然のこととして、「現状が分かった」という効果はあるようですが、実際の業績向上や事業の好転につながったという評価はまだまだ低いようです。
少し古いデータなので、活用が進んだ会社ではもう少し効果が現れているでしょうか。
でもまあ、もともと「健康診断ツール」だということですので、診断しただけで元気になったりしないのと同じで、診断の結果を受けて「どうするか」を考え、実行していかないと効果・成果にはつながりませんよね。
社長としても、「効果」さらには「具体的な成果」が見えないとなかなか本気にはなれません。
社長自身が「戦略や計画の策定が必要」言いながらも、本音としてはどこか「戦略立ててどうなる?」というのがあって、なんだか中途半端なコミットで終わってしまう・・「作ったからいいでしょ。ハイ仕事仕事」と、せっかく作った戦略や計画を机の引き出しにでもしまって、従来業務に戻ってしまうなんてこともあるわけです。
「で、どうする」がないと先に進まない
「それでどうする?」は自動的には出てこない
そうなんです、当然のことですが分析しただけ(健康診断しただけ)では何も起こりません。
「気づきを与え、経営の改善を促進」することを意図しているわけですから、その「経営の改善」につないでいかなければなりません。
分析結果を眺めていても「それでどうする?」が自動的に出てきたりはしませんから、そこからは状況に応じた対策・施策を考えなければなりません。
ダメな内情までは考慮に入りきらない
ロカベンを使って戦略やビジネスモデルのヒントを得ていろいろな手を打っていくわけですが、それ以前に「会社の困った状況」が邪魔をしていて、その状況を改善することが先決・・なんてこともあります。
もちろん「マネジメント」などで改善できることもあるでしょうが、「困った状況」というのはいくつもの困ったことが絡み合って会社を沈滞させていたりします。
とはいえ、ロカベンの枠組みでそこまで考慮するのも無理があります。一部「経営者への着目」など内部事情についての分析項目もありますが、いわゆる「悪さ加減」をあぶりだすようには出来ていません。
会社内部の困った状況も中規模企業までであれば多くの場合「経営者」に起因するように思います。
そうでないとしても、中規模までであれば社長が何とかすれば改善できているはずですので、やはり「社長のせい」となってしまいます。
とは言え、ロカベンの「経営者への着目」でそんなことが分かるわけもありません。
この「困った状況」が「病的」なレベルまで進んでしまうと深刻な問題となります。
ここまで来てしまうと、ロカベンでどうこう・・という話ではないので、別途の手当てが必要になってきます。
実際の成果につなげるには、ロカベンの分析・検討を土台にアクションにつなげていくのが大事
ロカベンで要改善点が分かり、それに応じた対策・施策を検討し、それらを「アクション」として起こしていかなければ実際の成果にはなりません。当然のことです。
「それ以前の悪さ加減」を何とかしなければならないのであれば、それを最優先に進めるべきです。
ロカベンで得られた「戦略的な要点についてのヒント」を組み合わせて「戦略」を立て「計画」として具体化させて、実行していくべきです。
ロカベンをもっと活用するために
「健康診断ツール」を超えてもっと活用していくためには、「実際の成果につなげる」ことが必要です。
まずはロカベンを使って、「課題」というより「次につながる戦略的なヒント」をたくさん見つけ出すというスタンスで臨んでみてはどうでしょうか?
非財務情報から戦略やビジネスモデルの「ヒント」をたくさん獲得する
①業務フロー
この情報では「ビジネスモデルの特徴の把握」と「差別化ポイントの把握」がテーマとなります。
別途「強み」を把握する箇所がありますが、このフロー上で「これがあるから競争が出来ている」というのを認識するのは大事です。
そこから「その強みはこれからも続くのか」とか「さらに発展させるにはどうするか」「もっと他に強化すべきところはないか」などを考えていくことが出来ます。
②商流
ここでは川上側(仕入れ先、協力先)というより、ここでは川下側(得意先、エンドユーザー)の「選ばれている理由」が重要なポイントです。
会社としての「顧客価値」「提供価値」にもつながる検討です。
③4つの視点
経営者への着目
この情報がとっても大事なのですが、実際のところ「客観的に」評価されることはないと思います。
経営者自身が記述する場合に客観性は望むべくもありません。
社内の他の誰かが評価するにしても経営者に遠慮することなく評価することは困難でしょう。
外部の第三者(支援機関)が評価する場合でも、利害関係がある以上、客観性は保証されません。
とは言えここで注目したいのは「ビジョン」と「後継者」です。このあたりを軸にして検討を拡げていくことが出来ます。
事業への着目/企業を取り巻く環境・関係者への着目
この2つの項では、SWOT的な認識が中心となります。
事業における「強みや弱み」が「商品」「顧客・市場」について「競合との比較」の観点で具体的に認識することが意図されています。
また事業環境の認識に基づいて。SWOT分析の「O:機会」や「T:脅威」などを考えます。「顧客・市場」「競合」「人材確保」などの具体的な項目が検討されます。
ここでは、「クロスSWOT」の分析・検討が求められると思います。また「知的資産」の観点での検討が重要になり、戦略のヒントとして役に立ってくるはずです。
内部管理体制への着目
4つ目は各種の「マネジメント」および保有技術やノウハウについても整理します。
ここでも「知的資産」が重要視されています。「ヨソには難しいけどウチはこれができるから!」というものをピックアップしておきましょう。
ヒントを組み合わせて「戦略」にしていく
ロカベンの「非財務情報」は上手く見ていけば、これからの新しい展開のコアとなること、つまり戦略のポイントが見つかります。
ガイドブックでも述べられています、「『差別化ポイントなんて無い』なんてことは無い」と。
これまで何年も会社が存続して、それなりの規模になってきたわけですから、必ず「何か」あるはずなんです。
ただ、それが「これからも」効くかどうかは分かりません。その辺りも考えていくのが戦略です。
いろいろ気付いたことやアイデアなんかを組み立ててこれからの展開のための「戦略」としてまとめていく
出てきた課題や戦略的ヒントに個々に改善・対応するのも必要ですが、ロカベンの趣旨としては「得られたヒントを組合せ、組み立てて戦略の策定、ビジネスモデルの再構成につなげていくこと」が求められてるんじゃないでしょうか。
そのあたりをまとめていくために、内閣知的財産戦略本部の提唱する「経営デザインシート」なども活用できるのではないでしょうか。
もっとコミュニケーションを
以上のように考えるとやはり「ロカベン」は経営者一人で取り組んでも限界があるのではないでしょうか。
また制度趣旨としてはじめから「対話のための共通言語」とされているように、一度考えて終わり・・というものではありません。
社外とは「客観的」な目で見た会社や事業についてのコミュニケーションを、社内では改善や戦略遂行に向けた「共通認識」や「参画意識」の醸成のためのコミュニケーションを図っていきます。
みんなで頑張るぞ!ってことですね
ロカベンは「コミュニケーションの材料」として機能してこそ意義があります。
客観的な目で見てみることが重要だし手っ取り早い
社内の限られた思考や見方だけでは発想も広がりにくいです。
もっと外部の第三者(支援機関)を頼って、使っていけばよいと思います。
日々の仕事もある中で、黙々と取り組むのもタイヘンですから外部を上手く活用してみるのが手っ取り早くてよいと思います。
一旦、まとめ
いかがでしたか? 今回のお話をまとめてみます。
- ローカルベンチマーク(ロカベン)は経済産業省が旗を振る、中堅・中小企業のための補助金等の申請と経営分析のためのツール
- 4つの特徴がある
- 補助金等申請のフォーマットになる
- 同業種企業のレベル感と比較して評価可能な財務分析ができる
- 「非財務情報」を通じて戦略策定のための要点のヒントが得られる
- 社内外とのコミュニケーションツールとして活用することができる
- ただ、実際の成果につなげるためには活用の仕方を考えなければならない
- 認識された戦略要点(強み、ビジネスモデル、機会)などを組み合わせて「どうしていくか」を考えることで次に、成果につながっていく
- そのためには経営者一人で考えずとも社内外でコミュニケーションを図り、一緒に考えていけばよい
⇒そのための「ロカベン」であり、上手く使えばよいツールとなる。
「ロカベン」をベースとした展開についてこのあともお話を続けていきます。