中期経営計画などで上司(主に社長)の目標設定が無茶振りだった場合の対処法~コンサルタントのやり方を参考に

戦略や事業計画を立てる際の「目標」設定について、コンサルティングのときに目安にしていることをお話しします。

「ちょっと無理なのでは?」という目標設定をどうやって考え直してもらうか・・なんてことにも使えるかもしれません。

社内プロジェクトを任されたあなたにも役に立つお話です。

その「目標」はホントに達成できそうですか?

中堅・中規模企業の「中期経営計画」策定プロジェクトのお手伝いをする場合など、社長と話して現状の様子などを教えてもらった後、「では早速」ということで計画対象期間の「目標数値」を尋ねてみます。「どれぐらい行きたいとお考えですか?」と。

社長が無茶言ってる・・

直観的に「それちょっと難しいんじゃない?」と思うこともあります。

従業員の人に聞いてみてもやっぱり難しいというか「社長が無茶を言っている」・・ということのようです。

「まただよ・・」的な「いつも社長は無茶を言う」という言外のニュアンスも見逃さないのがコンサルです(笑)

「キリの数字」と「周年」が近いと、それにつられて「無茶」を言ってしまうことがよくあります。

特に、その2つが重なると思い切ったことを言い出しがちです。

「○○周年に『500』達成を!」みたいに。

威勢のいいこと言いたくなる気持ちも分からなくはないんですが。

社長が「これだけやるぞ」と言えば従うのが中堅・中規模企業の定めですが(もちろん大企業でも小企業でもそうですが)、抑えてもらうことが必要な場合もあります。

野球少年が「ボクはメジャーリーガーになる」と言うのとはワケが違います。企業の目標で「夢はデカいほうがいい」なんてのは、起業当初には許されるかもしれませんが会社が中規模にもなってくると、デメリットが多くなってきます。

たいていの場合、社長は理性的ですが、そうでないケースも何度か目にしてきました。「とてもじゃないけど、そんな目標でやっていけない」・・のをゴリ押しするみたいな。

そんな時、何とかお諫めするのもコンサルタントの役目でもあります(だって、社内の人では難しかったりするので)。しかし一方で部外者では限界があるのも事実です。

社長の無茶振りはともかくとして、「目標」のハードルの高さは知っておきたい

社長をどうやって抑え込むかは一旦置いといて・・、

「目標」が「妥当かどうか」などはやってみないと分かりませんし、戦略を立ててこれから「どうやって達成していくか」を考えていくわけですが、最初の印象としてざっくりとは「この目標は、堅いのか、いいカンジなのか、チャレンジングなのか、無謀とも言えるのか・・」バードルの高さは知っておきたいので、ごくシンプルに次のような項目に照らして整理をしてみます。

  1. 会社業績のトレンドライン
  2. 市場全体のトレンドライン
  3. 市場トレンドと会社業績トレンドの相関性
  4. 過去5年で一番伸びた3年のトレンド

順に見ていきましょう。

1.会社業績のトレンドライン

3年の中期経営計画目標なら、過去5年程度の売上実績のトレンドを見ます。

単純に棒グラフを作って見ればいいですし、会社からもらえる資料に載ってたりもします。

まあ、簡単なのでエクセルで過去5年の数字を入れてグラフにして、「近似線形」なんかを見てみます。

過去のトレンドと比べてこの「目標」はどれぐらい‟外れて”いるか

で、その売上実績のトレンドの延長線から外れていなければ「まあそんなものなのかな」と、一旦は理解します(一旦というのは、その他の状況をまだ勘案していないからです)。

でも、このトレンドから上に外れていることが多いです。

図のような極端な例も少ないですが(実際、あるにはありますが)、コンサルまで使って計画を立てるんだから少々チャレンジングに行こう、行けると思っているのでしょう。私が関わったケースでは上振れのケースが多いように思います。

コンサルタントって期待されてるんですね!

いやいや、そういった期待のされ方も違うと思うのですが・・

2.市場のトレンドライン

会社の業績だけでなく、市場全体のトレンドも見ておきます。

強含みで当面グイグイいけそうだから、会社の目標も強気で考えているというなら一定の納得もできます。

一方、市場の伸びが鈍化していたり、ピークを過ぎてしまっていたりするのに、過去の勢いを想定した目標を掲げているようならちょっと問題ですよね。

ライフサイクル系トレンド

ある商品(カテゴリ)のライフサイクル「導入期~成長期~成熟期~衰退期」のどのステージにあるのかによって、事業の先行きもある程度読めます。

市況系トレンド

上がったり下がったり、当面のトレンドを読むのは難しいですが、需要が増えそうな要因など周辺環境から見出すことはその業界の人ならある程度できているはずです。

その読みに応じた強気の目標なのか、そうではないのか・・。

3.業績トレンドと市場トレンドの相関性

2.で見てみた市場のトレンドと会社の業績のトレンドの相関は大きいのかそうでないのか見ておきます。

これも参考程度です。5年以上はデータが欲しいところです。

一般には、「0.7以上」であれば相関性が高いと言われますが、市場トレンドと会社業績トレンド・・もともと相関性が認められる事象同士です。「0.8」や「0.85」をしきい値としてもよいかもしれません。

5年とか10年の会社業績に1つ2つ異常値があれば相関性は低下しますが、そのあたりは異常値当時の事情を訊いて、多少の補正を行う場合もあります。(明らかに異常なら、その年度は外すとか)

相関性が高い場合は「相関が高いんだから、外れるには相応の説明が要る」と考える

当社の「シェアが高い」と、市場トレンドと業績トレンドの相関は大きくなります。影響を受けやすくなるんですから当然です。

シェアが低い(高いわけじゃない)のに相関性が高いとなると、何らかの同調性があるのでしょう。

別に、その同調性の原因とかは追究しなくていいです。単に「相関性が高い」ということが分かれば。

相関性が高いのに「市場トレンドから外れる目標」を掲げることには相応の論拠が必要・・これが言いたいだけなので。

相関性が低い場合は?

では、相関性が低ければある程度「外れる」ことは許容されるのでしょうか?

もともと市場トレンドと会社の業績トレンドは「相関性がある」と考えるのが普通です。

シェアが小さくて市場の動きにあんまり左右されない

そんなに小さなシェアだったら「零細企業」ってことになりそうですが、例えば自社商品が該当する市場データの詳細がなくて、大きな括りでしか把握できない場合などは市場規模に比べて自社の売上実績は小さなものとなります。

そういうケースでは、市場のトレンドと会社の業績はあまり相関性を持たないかもしれません。

外れたデータがいくつかあって相関が低くなっているケース

本来「市場のトレンド」と「会社業績トレンド」には一定の相関はありそうです。それが「相関性が低く」出たとすると、それは「外れたデータがいくつかある」からです。

ポイントは「どっちに外れたか」です。

  • 上に外れて相関性を低下させているなら、「市場の動きとは違って実績を上げられる」といったポジティブな可能性はあるのかもしれない

とも言えます。

一方、

  • 下に外れて相関性を低下させているなら、トレンドから「上に外れる」ことの説得力には乏しい。

という見方になります。

つまり、「わが社の業績は市場トレンドとの相関性はあまりない。だから市場トレンドから外れた目標にも無理はない」と言えるのは、相関性を下げているのが「上ぶれ」が原因となっている場合だけです。

「下ぶれ」で相関性を低下させているなら、なおのこと「トレンドより上の目標の妥当性には疑問が大きい」ということになります。

4.過去5年で一番高かった3年間の伸び率

過去5年で一番高かった3年間の伸び率・・どういうことかと言うと、「1年目から3年目」「2年目から4年目」「3年目から5年目」、この3つの伸び率のうち1番高いものが「中期の目標達成のために必要なここから3年の伸び」と比べてどうかです。

(ここでも簡単にエクセルの「線形近似」を使っています)

この例なら「2年目~4年目」の3年間で一番伸び率が高いです(傾きが「0.75」で最大です)

これと同等の伸びなら、まあ実現可能と言っても無理筋ではない、逆にこれ以上の伸びは「最近ではできたことがないレベル(だから相応の策がないと難しい)」として考えることになります。

過去のどこかの3年間で実現したことのある伸びなら、今後「無理」とは言い切れませんよね。

ただ、それを上回る伸びを必要とするなら、相応の策が示されなければ納得は出来ません。

しかも、「市場トレンド」が強含みかどうかと併せて考えないといけません。

弱いのに「過去に匹敵する伸びを期待」というのであれば、それはちょっと無茶とも言えます。

これらの見方を「目標を立てた人」と「その他関係者」ですり合わせる

お気づきとは思いますが、ここまでの検討は「高めの目標設定に対して、それを抑制する」ことをイメージしています。

「社長をどうやって抑え込むかは一旦置いといて・・」とか言いながら、めちゃめちゃそれを意識しています。

社長の目標設定はそんなにダメなの?

冒頭にも言った通り、中堅・中規模企業の「中期経営計画」をイメージしています。

こんなケースでは、まず間違いなく「社長(経営トップ)が掲げた目標について、従業員はそれを高いと感じる」という構図になります。

当たり前ですよね、社長は「できるだけ高い業績目標で頑張ってもらいたい」わけですが、一方役員以下の従業員としては「目標は評価などにも関係するので低い(簡単)なほうがいい」わけです。

それが正しいかどうかではなく、「社内で一人だけ見る方向が違う人がいる」というだけです。

あ、社長の腰巾着というかイエスマンの専務とか常務とかがいるかもしれませんが、その人は社長と同じ方向から見ていてもカウントしなくていいです(笑)

結局は両者の納得できる落としどころを探る

いくらキレイごとを言っても「目標を決める人」と「目標をやらされる人」の関係は変わりませんので、両者の落としどころを探ることになります。‟決着をつける”というのではなく、可能な限りの対話で「納得」に近づけるのが目的です。

まずは両者の「言い分」を整理します。

上振れの目標には「根拠」を求める

社長の言う「目標」が「無謀」でないなら、然るべき「策」や「根拠」が求められます。

「根拠」といっても、現時点ではそんなにタイトものでなくてもよくて、「納得感」があればいいです。

「なるほど、それならなんかできそう」という納得感です。

まずはそれを示してみてくださいとお願いしてみます。

目標を達成するためのしっかりとした「戦略」があるなら納得できそうです。例えば「戦略コンセプト」を共有したら「できるかも!やれるかも!」と思えるかもしれませんよね。

(「戦略コンセプト」について)

トレンド等から「難しさ」を共有する

昔とは違う「最近の」トレンドをベースに難しさを共有した上で、示された「策」や「根拠」に照らした「目標の達成可能性」について議論します。

そのための上述の1~4の項目です。

それぞれで見てみたことを説明して、示された目標の難しさとそのための戦略の実現性などを理解し合います。

いずれにせよ一番大事なのは、

目標を設定するほう、実行する(やらされる)ほう、双方が納得すること。

です。対話の機会を是非持ってください。

(ところでコンサルタントはどっちの味方なの?)

力関係から社長が強いのは分かりきっています。最終的には「それでも社長がそう言うなら・・」ということで収めることになります。

このすり合わせに立ち会うのはコンサルタントとしては最初の難関になることもあります。「どっち寄り」のスタンスを取るのか、両方から見られていますからね。

契約自体は社長からもらっています。でもプロジェクトは従業員の人たちと進めなければなりません・・。

「どっちの味方か」というより「味方につけたい」と思ってもらえるような振る舞いや意見の提示、アイデアの提案が要りますね。そこがコンサルティングの醍醐味の一つです。