「経営理念」の実用性は?~ないとカッコつかないけど、あったからといってどんな役に立つでしょうか?

今回は「経営理念」について考えてみます。

各社にあると思いますが(ない場合もありますが)、その形式が多様であるのと同様、扱われ方や役立ち方もそれぞれです。

「経営理念」「基本理念」「企業理念」「社是」「フィロソフィー」「憲章」・・言い方はいろいろありますが、なんか「会社で一番上の‟意志”や‟決め事”」みたいなものです。

さてこれらの「経営理念の類」ですが、どんなものかちょっと検討してみましょう。どんなものか?だけでなく「そもそも何のためにあるの?」とか「実際、要るの?」というところも考えてみます。

経営理念の「型」

「経営理念」はそれ自体が会社の「計画」とか「戦略」ではありませんし、「規則」でもありません。

でも、なんだか「それっぽい」ことは言っていたりします。

形式は会社ごとにいろいろあって、一流企業のケースが紹介されたりしますが、こってりと語っているものもあれば、意外とあっさりしているものもあります。

中には偉大な創業者から綿々と受け継がれた、まさに「理念」というカンジのカッコいいものもありますが、多くは「社名」や「具体的な事業領域」のところにモザイクかけたら、どの会社かものか分からない、どの会社でも言えそうなもの・・に見えてしまうのは私だけでしょうか?

よくある「経営理念」の形式

いくつかの例外を除いて、各社の「経営理念の類」は大きく2つの形式に区別されます。

「宣言系」と「規範系」です。

「宣言系」は「わが社はこうあります、なります、なりたい」と「比較的短い文章で語られている」もので、

「規範系」は「会社は、社員はこうあるべし」みたいな内容を「箇条書きっぽく列挙する」タイプのものです。

「宣言系」の構文

それで、「宣言系」の経営理念の場合には次のようなコンテンツ(構文)で語られます。

「こんな事業領域」で「こんな価値提供」をして「社会に貢献」し「社員もいいカンジ」になろう

最後の「社員云々」がなかったり、わざわざ「事業領域」を言わなかったりするケースもありますが、概ねこんな感じの構文が多いです。

「企業」というのは「役に立つ価値提供をして」「社会貢献する」、「貢献に対価を得て、事業を継続させる」という、社会の「装置」なわけです。

なので「社会貢献する」のは当たり前で、その貢献の内容や部分が各社の「提供価値に応じて変わる」というだけのことです。

だから、どの会社が言ったところで似たような構文になるわけですね。

「規範系」の構成

「宣言系」と同じような内容を‟小分け”に箇条書きっぽく語るのですが、小分けに出来る分(価値提供や社会貢献のための)「プロセス」まで細かめに言うこともできます。次のように。

  • 事業領域、価値提供
  • 貢献
  • プロセス(顧客との関係、技術やノウハウをどうする、組織としてどうする等)
  • 社員の心構え、姿勢

少々「説教臭く」感じられるのも、プロセスに踏み込んでいたり「心構え」や「姿勢」などを言っているからなんだと思います。まあ、「規範」なんですから当然と言えば当然ですね。

経営理念の「軸」

どんなふうに「価値提供」するか(=「提供価値」が何であるか)が中心

「宣言系」にせよ「規範系」にせよ詰まるところ、「経営理念」というのは「わが社の提供価値はこういうこと」というのが軸になります。

ただ、「提供価値」となると同業各社で似てきて当然ですよね。似たような商売しているわけですから。

例えば食品関係の企業が提供価値を語ろうとすると、「美味しさ」「健康」「(食事の)楽しさ」「(生活の)豊かさ」みたいな話になるわけです。これって、なんていうか・・当たり前なんですよね。同業他社でもそのまんま使えるわけです。

事業領域や提供価値を限定しすぎると将来合わなくなるかも

じゃあ、ということで事業領域や提供価値に関連してちょっと変わった、ユニークなことを言ったとすると、それが何かを「限定」していまうこともあり得ます。

「パン製造・販売」の企業が「豊かな‟朝食”を」と言ってしまうと「そうするとわが社は、昼食やおやつ、夕食、夜食への展開は考えないのか?」となってしまいます。

(今はないかもしれないが)将来の事業展開を「否定」とまでは言わずとも「範囲外」「対象外」のように扱ってしまうことになります。

もし経営理念が実情に合わなくなったら?

事業展開について経営理念と合わなくになった場合、ここで、3つの考え方があります。

  1. 実情に合わなくなったから経営理念を変えればいい
  2. 経営理念なんてお題目だから、無視すればいい
  3. 経営理念に沿わないからやらない

1.が多分最も現実的ですが、次のような問題もあります。

「経営理念は『憲法』みたいなものだ」と言う向きもあり、また「偉大な創業者の定めた経営理念を綿々と受け継いでいる・・という事例を見て、『経営理念は一旦定めたら変えるものではない』」とか思われていて、「経営理念を変えるなんて畏れ多い」と忌避されるかもしれません。

2.のように考えるなら、もともと「経営理念」自体必要ありません。

3.のようなことが起こり得るでしょうか。これはあるかもしれません。コスト削減のためにグレーな先と取引するとか、国内外の軍需系企業と取引するとか、それをよしとするのか否定するのか、「経営理念」を拡大解釈して乗り切るのか・・少なくとも何らか検討することはあるかもしれません。

「提供価値→社会貢献」の文脈でユニークさは出しにくい

将来の事業展開と不整合を起こさないために・・と考えると

事業展開と齟齬をきたすような経営理念によって、将来それが問題になる・・そんなことが起こらないように、賢い人は最初にちゃんと考えるわけです。「可能性を広くとっておく」というふうに。

そうすることによって、「いろんな可能性を包摂できる」一方で結局「なんでもあり」っぽい公倍数的な経営理念が出来上がるわけです。

「なんでもあり」は「何も言っていない」のと同じですよね。いくら「もっともらしい」言葉を並べたところで。

構文の中で一番オリジナリティを出せそうな「価値提供」についても、あまりユニークなことが言いにくいとなると、「提供価値→社会貢献」が構文の中心となる「宣言系」の経営理念はユニークさを出しにくいということになります。

「規範系」でオリジナリティを出す

そこで、比較的ユニークさを出せる「規範系」でオリジナリティを出していくわけです。

  • 会社として、社員として持つべき意志、思想
  • 活動において重点を置くべきこと
  • 社員としての姿勢

などなど「価値を生み」「社会に貢献する」ためのプロセスとして大事なことを語ります。

でも、ここでも「規範についても時代によって変わる」ことも考えられますから、今の感覚だけで語ると先々使えないものとなるかもしれず、要注意です。

まだ経営理念がないなら形は気にせずつくりましょう すでにあるなら必要なことは追加しましょう

ということで、「宣言系」ではあまりユニークなことは言えずとも「わが社はこうある」というのをとりあえず言っておいて、それに「規範系」の箇条書きを追加しているケースもよく見られます。

「規範系」の部分は「フィロソフィー」とか「憲章」とか銘打っていることもあります。

それらが「経営理念」とどういう関係にあるか・・とか疑問も湧きますが、そんな話が生産的とも思えませんし、形式は好きなようにすればいいんです。

もし会社に「経営理念の類」のものがないなら、「言いたいことが何か」を明確にして、形式にこだわらず作ればいいです。

昔からの創業者がつくったような「経営理念」がすでにあって、それ自体は触らないほうがいいなら、「規範系」で「下のレイヤー」の何かを経営理念との整合性に留意しながら必要に応じて追加するというテもありますね。

で、経営理念って要るの?何かに使えるの?

経営理念について「宣言系」と「規範系」というタイプをもとに形式は自由ということですが、それ以前にそもそも「経営理念」って必要なものなんでしょうか?何か役に立つのでしょうか?特段の必要性がないなら別につくらなくてもいいですよね。

一般的には「何か意味がある」とされるがホント?

私が思うに、経営理念をつくる理由としては、

「あったらなんだかカッコいい」・・これに尽きるんじゃないでしょうか。

額に入れて飾っておけばよくて、「必要性」とか「実用性」とかあんまり考えなくてよいのではないかと。

こんなことを言うと「一般的な見解」とは違っていて、批判されるかもしれませんけどね(笑)。

「経営理念」は「社員で共有すべきの価値観」とか「行動規範」とかを表すために必要とか言われますが、でも「会社の経営理念を意識して仕事をする」とか・・あんまりないですし、経営理念じゃなくても他の何かでも代用できますよね。

なんなら「ウチの『経営理念』ってなんだっけ?」ということもままあるんじゃないかと思います。

「みんなで唱和」とか・・なんか気持ち悪い

経営理念を通じて価値観を共有したり、それを行動の規範にしたいなら、社員に「しっかり覚えておけ」と言うだけではダメで、頻繁に話題に挙げるなどして、「意識付け」する必要があります。

だからと言って、朝礼とか会議の前とかに、社員手帳に書いてある経営理念をみんなで唱和したり・・とか、私は個人的にはそういうのキライというかヘンな宗教じみてて気持ち悪いと思うのです。

もし上手く使いたいなら

それに、経営理念の性格上「例外を生まないように広く捉えざるを得ない」わけですから、日々の業務や活動の基準になりにくいとも思います。

じゃあ、どうするか・・。もし「経営理念」を上手く使いたいなら、いくつか方法はあります。

①「唱和」じゃなくて「考える題材」にする

例えば「経営理念」に絡めて業務で気付いたことや意識していることを朝礼や会議の際に発表し合うとか・・ただ「唱える」だけではなく「考えさせる」ことはできると思います。

②部署や社員個人の目標に関連付ける

そのように使える作っておくことを前提として、目標管理制度を採用しているなら部署や個々人の目標に「規範系」の一部を絡めるようにするなどの方法があり得ます。実際にそのようにしている会社を複数見たことがあります。上手いやり方だと思います。

社員の意識付けや行動規範については、経営理念とは別のところでやればよい

以上の検討から、「経営理念」はあまり触らずに(‟お題目”でもいい)、経営理念に整合させた「ビジョン」とか「行動指針」とかより実効性のある下のレイヤーのものを真剣に議論検討し作成して活用するのがよいと思います。

「ビジョン」等についてはまた別の機会にお話しします。

まとめ

今回の話をまとめます。

  • 「経営理念」の類には「企業理念」「基本理念」「社是」「フィロソフィー」「憲章」とかいろいろある
  • 「経営理念」には大きく分けて「宣言系」と「規範系」がある
  • 「経営理念」は「価値提供による社会貢献」が中心となって表現されている
  • 将来の事業展開を念頭に、事業領域や価値提供は限定しないよう「広い」概念で述べられる
  • 結果として、その部分での「ユニークさ」は出しにくい
  • 「規範系」で表現される「プロセス」や「(会社・社員としての)姿勢」については幾分オリジナリティを出せる
  • そもそも「経営理念」はそんなに「実用性」はない。経営理念と整合する「ビジョン」などを重視すべき。

となります。

「経営理念」は、あっていいし、あればいいですが、「ないといけないか?」というとそうでもなく・・。実効性のある他のものがあればOKというお話しでした。