戦略や計画でまず必要になる「定量目標」~意図や根拠はちゃんとありますか?

今回は戦略や計画を立てる際にまず考えることになる「目標」についてのお話です。

一般に説明される「目標の立て方」というより「目標を立てる際の考え方や意識について」という話になると思います。

「会社としての目標」にも「個人の目標」にも使える話です。

目標設定の基本スタンスはどんなふう?

「目標」の決め方ですが、詳しく見る前にまずは基本スタンス(決める時の意識)みたいなものを考えてみます。

「目標」は覚悟を示すものです!

「目標」というとやはり、会社の場合だったら、事業を進める上での「経営者としての覚悟」そのもの・・ですよね!大げさではなく。

「目標」がバッチリ決まることで会社として「さあ、行こう!」と士気も上がるというものです。

事業部の目標でも、グループの目標でも、個人の目標でも同じことです。そう「覚悟」です。

だから、フワっと決めてはいけません

定量(数値)目標について「今年度は380だったから・・、次は、400じゃなんだか少ない気がするし、でも500はタイヘンそうだから、間をとって450ぐらいにしとこっと」的な決め方してませんか?

こういうの、関与先の会社さんでもよく見かけますよ。これじゃ「目標」とは呼べませんね。

これでは覚悟もなんもないわな

「目標」は「分析」から出てくるものでもありません

フワっと決めたらダメだから目標設定の「論拠」をハッキリさせようということで、なんだかたくさん需要に関する分析をして、市場予測を綿密にして、シェアを考えて・・例えば「来年度の市場の伸びの予測は16%程度で額にして『146』、当社のシェアが42%なので『61』、つまり目標は『380+61=441』」・・とか計算だけして出すものでもないですよね。

これも「覚悟」ってカンジがしないですね

リサーチは「裏付け」「参考」「修正のための根拠」としては要るかもしれないけど、目標はあくまで「立てる人」が決めることです

「何言ってんの?戦略目標って市場分析とか競合分析を受けて設定するものでしょ?」って思った人もいるんじゃないでしょうか。教科書的にはそう説明されることもありますしね。

でも実際、(戦略)目標ってそんなふうに立てないことが多いです。

目標を立てる人の「これぐらいやりたいな」で決まるんですよね。

で、結局リサーチや分析は要らないの?

「目標を検討するタイミング」では、「きっちりとリサーチして分析して」っていうのを、「やらなくていい理由」と「やる理由」があります。

<やらなくていい理由>

  • 改めてそんなことしなくても、日々の業務の中でだいたいの状況は分かっているはず。
  • きっちり分析、検討したところで「目標」値が倍になったり半分になったりしないはず。(そんな大チャンスや大ピンチが掴めていないとは思えない)

<やる理由>

  • 「目標を立てる人」の市場や競合に対する認識がずいぶん甘そうで、無茶な目標を言い出しそうな時に抑えさせるため。
  • 後で金融機関用とか誰かに説明する必要がある際の「根拠」としてどうせ載せなきゃいけなら先にやっておく。

ということで、普段からそういった情報を押さえているなら改めてやることもないでしょう。一方、そんなこと滅多にしない、したことがないとか、「状況を甘く見てイケイケの目標立てそう・・」と(社長のムチャ振りをなんとか止めたい経営企画部長さんとかが)危惧するなら先にやっておいたほうがいいでしょう。

がんばって止めてください・・

(コチラでは、「無茶な目標を言われた時の対処の仕方」とかをコンサルタントの立場で解説しています。)

でもたまにリサーチにこだわる人がいる・・

とは言え、リサーチは「裏付け」とか「修正」のためであり、「いくら詳細にやったところで答えは出ない」わけです。

たまにいますが、過剰にデータ収集にテマヒマかけて、それでも「データが足りないから判断できない」とかいう人・・。

戦略や計画策定を任された役員さんなんかがそういうことがあります。

要は、「自分の判断に自信が持てない」「目標額が少なかったら社長に文句言われるし、多くて未達成なら責任云々言われるし」ということなんでしょうね。

いくらデータを集めたところで、同じデータに対してだって真反対の見方があり得るわけですし、そこは業界に精通している人なら「嗅覚」というか「勘」も大事になってきます。要は「センス」です。

判断に必要なあまねく全てのデータなど手に入るわけもないですし、仮に手にしたとしてそれを前提に判断するだけなら意思決定者は要りません。AIでもできます。

まったくデータを見ずに「勘だけを頼り」にするのもコワいですが、「データを頼り過ぎ」もどうかと。そのあたりのバランス感覚やセンスが求められますね。

さて、シレっと話しましたが、ココにはもう一つ大きな問題があります。お気づきになりましたか?

その辺りのことは、またの機会に別稿でお話しします。

自分で決めるか、与えられるかで目標自体の性格は変わります

端的に言って、自分で決めたら「目標」で与えられたら「ノルマ」なんですが、全社に対する事業(部)目標、さらにその下のグループ目標、個人目標・・と、それらを全て「ノルマ」と呼ぶのはなんだかなぁって感じです。

やらされているだけみたいでイヤかも

確かに、上位の目標があってそれを達成するために下位の目標として「割り当て」られるものなんですが、「有無を言わせない、強制的な」ものでないなら目標と呼んでもいいと思います。

ただ、その目標設定に「自主性」や「コミットメント」がある程度はないといけませんね。形式的なものだけじゃなくて。

フリだけで、実際は強制してたら、結局は「ノルマ」と一緒やしな

逆に、各部署からの「積み上げ」で全社目標を設定する・・というつくり方もなくはありません。

「自主性」とか「コミットメント」は得やすいですし、「大ハズレ」のリスクも少ないかもしれません。

カタチとしては「全社目標のブレークダウン」でも、実質は「積み上げ」で設定されるケースもままあると思います。

でも、これって「戦略目標」って言えるんでしょうかね?

希望だけで「目標」を決めていいはずないでしょ!

掲げようとする「目標」が、これまでの業績トレンドから外れるなら、それについてちゃんと説明できますか?

今の数字とこれまでのトレンドから、上や下に外れる目標を想定する場合(たいがい上に外れますが)には、「そうなる理由」「そうできる根拠」がある程度説明できないと困りますよね。

上振れの場合に何が加わりますか?そのイメージがしっかりないのに、トレンドを超えた目標を掲げるってどうなんでしょう。

「気合い」とかは論外で、「それをこれから考える」とかもダメです。

目標設定段階で少なくとも「ざっくりとした腹案」ぐらいでもないと、戦略も立ちません。

「新しい商品分野が加わる」「新しい市場が加わる」といった新規事業展開で上積みが期待されるようでないといけませんよね。

新しく何かやるなら誰がそれをやります?人員なんかを補充するか回してくるかしないと。まさかそのアテもなく「新たに追加」とか考えてないですよね?

新しいことをするなら、「新たにそのためのリソースを確保する」か「今までやってきたことを減らしてそちらに回す」かしないといけませんよね。

それとも、これまでよほど余裕残しで仕事してきましたか?まだまだたくさん「遊んでいるリソース」があるのでしょうか?

んなわけない

よく見るんですが、「今までのことは今まで通りやって、新しくこんなことを追加する(これまで以上に頑張れ)」という前提で考えてる人。それが社長だったらブラック企業ですね。

ここから先、市場のほうはどういうトレンドになるかある程度は予想できてますか?

自社の業績のトレンドだけでなくて、市場のトレンドもある程度は考えないといけません。

市場がこれから縮小傾向に入っていく(要するに、今がピークだった)ことが大方の予想なのに、自社だけこれまで通りのイケイケな目標立てても、なんだか無理っぽいですよね?

そういった認識は日常業務の中である程度把握していると思いますが、もし無いなら改めて押さえておいた方がいいですよ。

「伸びが鈍化」と読んだのなら早いうちに他にシフトすることを考えないと、一緒に業績が鈍化するだけで、新たな展開では出遅れることになります。

これもよく見るケースです。

市場の伸びが鈍化し始めているのに、これまでの調子がよかった頃の勢いを前提に目標を立てようとする・・。

早く次の展開(別の商品やマーケット)にシフトしないといけないのに、「まだイケる」と未練がましく粘ってしまうことになります。そのように「変わり身」が遅れてしまうことで、飽和、縮小する市場に必要以上に労力を割いて、新しい展開に出遅れてしまうことにもつながります。

「見切り」のセンスも大事ですよね。

他、企業の戦略目標として設定する場合の留意事項

当然ですが、期限は決めておきましょう。「そのうちに」とかは無しです。

目標を立てるからには「いつまでに」と期限を区切ります。当たり前ですが、企業の場合「そのうちに」とか曖昧なことはあり得ません。(個人ならあってもいいですが、まあその場合の結果は知れていますね)

でも、オーナー企業の社長からは「いつかは○○億に乗せたい」という「希望」なんだか「願望」なんだか「夢」なんだか・・は聞くこともあります。

「いつかは・・」とか言っていると、たぶんいつまでたっても無理でしょうね。

フツーは「いつまでの」が先に決まってますよね。「3年後」とか。それで数字のキリがいいっていうのもなんだかおかしくないですか?

逆に、「いつまでの(例えば向こう3年の)中期戦略、計画」のための目標だったら、それに応じて設定することになります。

なので、「キリのいい数字」に丸める必要もないんです。「3年後の今ごろにちょうど500」とかそんな都合よくいくこともないでしょうし、かと言って「492」とか中途半端な数字だと何か意味があるみたいで・・。(積み上げ方式だったらあり得ます)

いずれにせよ、ちょうど目標数値にピッタリなどというのは考えられませんので、あくまで「期限」を前提に丸まっていようがいなかろうがどっちでもよいと思います。

丸めたかったら丸めればええんとちゃう?

要するに「これぐらい」ってことで、「細かいこと」はどうでもいいんです。

ただし、評価が絡んでくるなら「多いほうに丸められる」ことにはちゃんと抵抗したほうがいいですよ

ということです。

測定可能性~出来たか出来てないかで評価したりするので、「測定できる」目標にしておく

目標は立てっぱなしではなくて、達成・未達成を振り返る必要がありますので、「できたかどうか」が測定できなけばなりません。

ここでは主に「企業の戦略」について話しているので、「戦略目標」というと「目指す売上高」「目指す利益額」といった数値で表現されるものがまずは思い浮かびます。

一般に「定量目標」と言われるものです。

定量目標はハッキリ分かりやすいのがいいので、へんに凝らなくても「売上」とか「利益」でOK

「店舗数」や「顧客数」なども「数字で表される」という意味で「定量目標」と言えなくもないですが、やはり「売上高」や「利益額」がよくあるケースですし何より分かりやすいですので、そのほうが目標としてしっくり来ます。

というのも、「店舗数」や「顧客数」は結局のところ売上や利益を上げるための「プロセス」に過ぎないので、「結果数値」としての「売上や利益」のほうがより戦略目標に適しているということです。

まあ、ややこしいこと考えなくとも「定量目標」というとフツーに「売上高」や「利益額」が出てくるので問題はないかと思います。

「売上(目標)」と「利益(目標)」

「目標数値」というと「売上高」や「利益額(経常利益とか当期純利益とか)」がよく使われます。

では、「売上」と「利益」だとどっちかというとどっちが「戦略目標」として向いているでしょうか?

「プロセスか結果か」という観点で見れば「売上高はプロセス」「利益額は結果」という関係なので「利益額」のほうが目標としてふさわしいということになります。

売上があっても利益が小さい場合もあります。費用がかかり過ぎる場合です。時には「利益がマイナス(損失)になる」ことだってあり得ます。

でも、売上が無いと利益もありませんから、頑張って売るわけです。

そう考えると「売上は利益を上げるためのプロセス」と言うことが出来るので、「結果数値」の「利益額」が本来企業が目指すべきものとなります。

ただ、多くの会社が「売上高」も戦略目標として掲げているということは、何らか「そうする理由」があるということです。

そのあたりの兼ね合いをちゃんと考えてやるのと、考えもなしにやるのとでは大きな違いがあります。

経営スタンスや「戦略」そのものにも関わる大事な問題です。

それについては、また別の機会にお話ししますが、簡単に言うと「売上」が「量」、「利益」が「質」というカンジでしょうか。

「売上一辺倒」の目標設定(量ばかりを追求する)には問題が生じることもあり得ますので注意が必要です。バランスよくいきましょう。

他にも大企業などは「ROA(総資本利益率)」や「ROE(自己資本利益率)」を目標数値に置いたりしますが、それには大企業なりの理由があります。(ネット上にもいろいろ解説が出ていますので見てみてください)

定性目標は要らない?・・かというとそうではないですが、メインにはなりません。

定量目標以外に「定性目標」というのがあります。数値で表さないタイプの目標です。

「××のジャンルで信頼されるブランドを確立する」とか「●●のリーディングカンパニーになる」とか。

目標にはなり得ますが、これらは「達成したかどうか」の「成果測定」がちょっと難しいです。

(「リーディングカンパニー」については、「シェアNO.1」になることが主な意図なら、シェアがトップになるような数値目標を設定するという方法もあります。)

そういう意味で「定性目標」は、メインにはなりません。

似たようなモノに「ビジョン」というのがありますが、それはどうする?

定性的なものは、むしろ「ビジョン」として表現されます。

一般的には「会社の理念」があって、それに基づく中長期的な「ビジョン」を描いて現状とのギャップを認識し、それ埋めるための当面の「戦略目標」を設定しましょう・・とか言われます。

もちろん、そういった「美しい流れ」を否定するわけではないですし、そうなっていればなお良いとは思うのですが、実際にいろんな会社で検討してきたカンジでは、「別にそれにこだわることもないかな」・・と思ったりもします。

「ビジョン」はいくつかの理由で必要ですが、要るのは「全社戦略」などレイヤーが高い場合です。そのあたりについてはまた別の機会にお話しします。

やっぱりバランス感覚とセンスかな?

何度か出てきましたが目標を設定するには「バランス感覚」が大事です。売上規模ばかりではなく利益へも意識を向ける、希望や期待だけでなくちゃんと現状を見据える、そのためには商売の勘だけでなく客観的データにも基づく・・など「目標」を設定するにもいろんな意味での「バランス」、もっというとビジネスの「センス」が大事になってきます。

掲げる「数値」にどんな狙いや意図を込めているか、それがしっかりしたものであれば、おのずと「戦略」にもつながっていきやすいはずです。

結局「センス」っすか・・

そうですよ。「センス」は大事ですからね。