「売上」について間違った考え方をすると、それがもとでますます病状を悪化させてしまう~【中企業病】
中企業病の会社では業績がジリ貧になりがちなので、経営トップとしては焦ります。
なんとか「数字」を上げていかないといけませんが、中企業病の会社では売上高にこだわり過ぎる傾向にあります。
「売上高」というより「売上数量」と言ったほうがよいかもしれません。
「とにかくたくさん売ってこい!」という指示が飛びます。
それがとてもマズいことになる・・というのが今回のお話です。
利益を犠牲にしてまで売上を追うというおバカなことをしてしまいます
もちろん売上を上げないと利益もありませんので売上高が大事であることは言うまでもありませんが、考えるべきことがあります。
ホントに売上を伸ばせば利益は増えますか?
利益(率)をしっかり取れるなら数を売れば売るほど儲かります。
しかし、多くの中企業病の会社が直面しているのは「忙しさが増すばかりで儲からない」、つまり利益が出にくい、利幅が薄いという状況です。
会社の事業は最初から利幅が薄かったかというとそうではなく、かつてはちゃんと儲けが取れたはずです。
でなければ、“中規模企業”になるまで会社は大きくなれていないはずですから。
昔とは違う・・と分かっているのに
どうして以前のように儲からないのか・・・大きな理由は市場環境や競争環境が変わってきたからです。早い話が、市場が縮小していたり競争が激しくなっていたりして従来ほど売れなくなった、儲かりにくくなったということです。
そんなことは古くから会社にいる人は当然分かっています。
でも、そんな環境の変化があってもお構いなしに(大した策もなく)「数量を確保せよ、増やせ」という指示が飛んでしまうのが中企業病の会社の特徴でもあります。
それは大きく2つの理由からです。
- 何をどう変えたらいいのか分からな(というかあまり真剣に考えていない)
- (状況が変わったことが)分かっていても、やはり「上手くいっていた」時のことが忘れられず、変えずになんとかしたいと思ってしまう。
人間は変化を嫌う生き物です。本気でヤバいことにならないと、なかなか「変える」ことを本気で考えないもののようです。
ホメオスタシスっちゅうやつやな
しかも、「忙しい」となるとなかなか違うことを考えようという余裕もありません。
「安易な無理」に走ってしまう
大きく変えたくないけど、でも状況は芳しくない。
しかも、数量追求の圧力(売ってこい売ってこいとやかましく言われること)で営業担当が安易に無理をしてしまいます。
「安易な無理」というのは、利益を犠牲にしてまで数量を追うことです。
- 値下げして売る
- 「カネを付けて」まで売りに走る(販売促進費等)
- カネは付けないまでも、無償サービス等を厚くして売る
どれも「新しい販路開拓」や「これまでにない販売方法の開発」などより「安易に」売上数量をキープできるかもしれません。
でも明らかに利益率は下がってしまいます。
しかも、これらは「一旦やってしまうと、元に戻すことがとてもタイヘン」です。
次の取引は、下がった価格、付いたオマケが前提になってしまいがちです。
もし値下げに競合が追随してきたりしたら、泥沼の過当競争に陥ってしまい。体力が乏しければ淘汰される恐れにもつながりかねません。
会社ぐるみのとんだ勘違いがさらに病気を悪化させます
値下げやリベートの類などは勝手にやると叱られますし、会社としても慎む方向で抑制するでしょう。
ただ、「無償サービスを厚くして売る」については、逆に会社として推奨されたりすることがあります。コンサルティングでお手伝いした会社でも時々あります。
他社との競争も厳しい中、自社の営業担当の誰かが「引き渡し後の輸送までやる」とか「従来よりアフターメンテナンスを厚くする」とかいうことで、販売価格を下げるとか販促費をかけるとかせずに大口の受注を取ったりします。
すると「いいやり方だ!」とばかりに社内で共有して他の顧客にも申し出たり、さらに夜間や休日の出荷対応をすることで、他社と“差別化”を図ったり・・。
いやいや、そんなのは「強み」じゃないです
そのうちに、「わが社の強みは、ニーズに応じたきめ細かなサービスである」とか「付加価値提供で顧客満足を高める」とかもっともらしいことを言って、いつの間にかそういった取引がスタンダードになっていきます。
ちょっと待ってください・・
そんなものは強みでも付加価値でもありません。
顧客のコストを肩代わりしたり、いいように使われて自社の従業員に負担を強いたりしているだけです。
他社の追随や模倣が困難で利益につながることが“強み”であり、対価性のあることが“付加価値”と呼ぶにふさわしく、商品力が無い(差別化が出来ない)のを補うためにコストをかけるだけで対価性もないことを“強み”や“付加価値”とは言いません。
もちろん、今はコスト高になってもシェアを大きく伸ばして競合を駆逐し、その後に収穫していくなどの戦術的なプランや新しいビジネスモデルの枠組みの一環であるというなら別です。
でも、どうもそうではなさそうな、とりあえず当座の数量を確保するための策でしかないのであれば、コストが嵩むだけ、従業員は忙しくなるだけ、・・・首を絞めるだけのことになってしまいます。
ここでも「魔もの」の思うつぼ
結局のところ、こんな風にして「儲からないのに忙しさだけが増していく」状況が作り出されるのかもしれません。
冷静に考えればおかしなことをしているということに気付きそうなものなのですが、そういう考えをする余裕がなくなっていくのも、“魔もの”に取り憑かれ支配される中企業病の怖いところです。
ちゃんとした判断ができなくなるのね・・
「売上至上主義」はさらに大変なことを惹き起こします。