売上偏重で数量ばかりを追うと数量に追われることになる~中企業病

中企業病の会社が陥る「売上高についての間違った考え方、やり方」についてもう少し話を続けます。

(前段はこちら)

以前のように「売上を伸ばしていけば、数量を増やしていけば利益が付いてくる」ような環境ではなくなったのに、それでもなお数量を追求してしまうのはなぜでしょうか。

販売数量ばかりを追ってしまう意識の元にあるもの

無理して数ばかり追っかけても疲れるし、利益もあんまり出せないのに・・でもやっぱり追っかけてしまうのはどうしてなんでしょう。

やっぱ、「シェア」は業界のステイタスだし

まず、「売上高」は会社にとってステイタスでありプライドでもあります。特に販売数量は“シェア”に直結しますので、簡単には譲れないという意識が強く働きます。

これはある意味、分からなくもないですし一理あるとも言えます。

そのステイタスは「ブランド」につながるかもしれませんし、業界における影響力のベースであるかもしれません。

「それらを戦略的に活用するために多少無理をしてでも・・」とまで考えられているなら意義のあることなのですが、「単なるプライド」だけなら、そのプライドと実利を天秤にかけてよく考えてみるべきですよね。

過去の成功体験が忘れられないし

そんなのではなく、もっとレベルの低い話として、過去の成功体験が拭えないという面もあります。

かつては販売数量を伸ばせば、相応に利益が上がっていましたので、「頑張って売っていけば儲かる」という思考が染みついてしまっているのです。

そうでなくなってきている今となっては、そんな過去の成功体験が邪魔になっているかもしれません。

それでも、トップや古参の役員クラスの人達は、今の若手社員を見ると昔との比較で物足らなさを感じてしまいます。要するに「頑張り切れていない」ように見えるのです。「俺たちはがむしゃらに頑張ってきたのに、今のヤツらときたら・・」って。

もちろん、そういったこともあるかもしれませんが、がむしゃらにやれば相応に売れるような環境ではなくなっていますので、“頑張る”ベクトルは往時とは異なるはずですよ。

薄々気づいていても手が打てない・・というか打つ手がない

上記のように意識の問題もありますが、数量にこだわってしまうのは「他に売るものがない、出来ることがないから」というのが端的かつ一番大きな原因かもしれません。

利益が薄くなってきていると分かっていても、他に出来ることがなければとにかく今あるもので販売数量を追うしかないですもんね。

損益分岐点は遥か高くに

利益が少ない(利幅が薄い)のに、無理をして販売数量を追求することでコスト負担が増えてより利益を薄くしてしまう、それを補うためにさらに数量追求・・・すっかり悪循環にハマってしまいます。

ある会社での例ですが、各部署がそれぞれ何とかギリギリ黒字か赤字という状況、総じて損益分岐点がかなり高い位置にあり、黒字の部署でも少し販売数量が減ると赤字に転落しそうな状況でした。

損益分岐点についてはご存知でなければ、どこかヨソで確認してください・・すぐ出てきますので。

ほとんどの部署で原価率が高すぎ(売価が低すぎ)で、僅かに残る利益もかさんだ経費で削ってしまっていました。

無理して売るからコスト高が慢性化して・・もう戻れない

しかも、無理をした、例えば無償サービスを付けて取った注文については顧客に対し「次からはありませんから~」というわけにはいきません。

顧客も当然のように求めてきて、いつしかスタンダードな取引内容になって経費高が慢性化します。

そこに競合が追従してきたりすると、さらにサービスの上乗せをしなければ取引を維持できなくなります。

一度手を染めると抜け出すことが非常に困難な・・・「麻薬みたいなもんですわ、ハハハ」と、私が関与した会社の従業員の方が自嘲気味に言っていました。

これが中企業病の悪循環を加速させる、“魔もの”が最も喜ぶケースなのかもしれません。

という困った状況を認識できていないのが一番ヤバいのかも?

そんな状況に陥っていけば何らかの手が打たれそうなものですが、困ったことに損益分岐点が高い位置にあって崖っぷちな状態であること自体を認識していません。

そういう分析をしていないですし、そもそもできないという事情もあります。

損益分岐点分析をしようと思うと、費用の固定・変動分解が必要で、それができるような管理会計のシステムが要りますので・・。

とは言え、現状はそんな“分析”作業の正確性が云々されるような状況ではありませんでした。ざっくりとでもよいので変動比率を把握して図示し、エラいことになっているのを把握すべきだったわけです。

とにかく余裕がないのが問題

いや、実はタイヘンな状況であることは、分析数値を見ずとも体感的に分かっていたはずです。

それでも、少しでも気を緩めて数量を減らすと損失に転落してしまうかもしれないわけですし、分かっていても他に出来ることもない・・・ということで数量を追うしかなかったということです。

ホントに他に出来ることがないのか?というと、そうでもないことが多いです。

どの会社もこれまで長くやってきて、主力商材の周辺に利益が高めの新規商材や派生商材・サービスの一つや二つ見えていることがよくあります(自社にその取り扱いがあるかどうかは別として)。

そういった新規展開に注力すればいいのにと思うのですが、やったところで当面のインパクトが小さいから本腰が入りません。

また、ノウハウもあまりなく手間がかかるため、激しく忙しい状況下で手を出しにくいという事情もあります。

「そんなことやってるヒマがあったら、主力商材を売ってこい!」と叱られたりするかもしれません。

数量を追うと数量に追われて、ますます悪循環に、“魔もの”に飲み込まれていきます。