ところで「戦略」って何だ?~よく分からない「戦略」について、なぜよく分からないかを説明してみます。
企業活動における戦略(以下「戦略」)については、「経営戦略」とか「事業戦略」とか、言葉としてはよく耳にします。本やネット上でもたくさんの解説がありますが、どれを読んでもなんだか今一つピンと来ないということはありませんか?
もともと「戦略」というコトバは分かりにくいものです。
そんな分かりにくい「企業の戦略」について分かりやすく解説・・するのではなくて、「なぜ『戦略』というものが分かりにくいのか」ということについて説明しようと思います。
他ではあまり見ない解説です。読んでみてください!
- 1. よくある解説では「戦略」がどんなものか分かりづらくないですか?
- 1.1. 解説はたくさんあるけど、肝心なところを説明してくれてない気がしませんか?
- 1.2. まずもって、定義がハッキリしていないと思いませんか?
- 1.2.1. みんな好き勝手なこと言ってるのでは?・・と思ってしまう。
- 1.2.2. レイヤーもいくつかあるからややこしいことになってる。
- 1.3. それより、「出来上がり」のカタチが見えないと思いませんか?
- 1.3.1. 書き表したものが見当たらないんですけど?
- 1.3.1.1. 「現状分析」の話はよく出てくるけどその先は?
- 1.3.1.1.1. 現状分析したら、次は「分析に基づく戦略のつくり方」じゃないの?
- 1.3.1.1.2. 「戦略類型」はあくまで「類型」であって「戦略」そのものじゃない。
- 1.3.1.2. 「考え方」だけじゃなくて、欲しいのは「書き表し方」
- 1.4. 「事例」もあんまりアテにできないと思いませんか?
- 1.4.1. 同じ企業の話が何度も出てくる。
- 1.4.1.1. 誰かが研究したものを引用また引用するから当然そうなる
- 1.4.2. ポイントだけになる。
- 2. 「戦略」ってホントにどこかにあるの?(実はないんじゃない?)
- 2.1. そもそも簡単にバラすもんじゃないし表に出したりもしない
- 2.1.1. 公開企業のIR情報
- 2.1.2. 事後の研究
- 2.2. 外に出せないなら、社内にあるのでは?
- 2.2.1. 内部の人間も信用できないから配らない
- 2.2.2. 一握りの人たちは知っているはず
- 2.2.3. あったとしてもカタチにはこだわっていないはず
- 3. なぜ「戦略」というものが分かりにくいか・・まとめ
- 3.1. 説明が分かりにくいから「戦略」が分かりにくい
- 3.2. そもそも表に出ないからイメージしにくい
- 3.3. じゃあ、どうすればいい?
よくある解説では「戦略」がどんなものか分かりづらくないですか?
今回の話で、「なぜ『戦略』というものが分かりにくいのかを説明する」とか中途半端ですよね。「分かるように説明」すればいいのに。
回りくどいわ・・
でも、少しでも「戦略」について考えたり勉強したりしたことのある人なら頷いてもらえる話だと思います。
「なぜ分かりにくいか」が分かったら「戦略」についての理解も少し進むと思います。
解説はたくさんあるけど、肝心なところを説明してくれてない気がしませんか?
戦略について書籍やネットの記事では「戦略を検討、策定するためのフレーム」や「戦略を考えるための手順やポイントとなること」なんかがよく解説されてますよね。
「3C」や「SWOT」などのフレームワークについてとか、「ビジョンや定量目標を設定しましょう」などの要検討事項についてとか。
「戦略と戦術の違い」や「経営戦略と事業戦略の関係」といった戦略の体系についての解説もよく見られます。
また、「コストリーダーシップ戦略」とか「差別化戦略」のような、典型的な戦略の類型が挙げられて説明されたりもします。
これらの説明で「なるほど、戦略ってこういうものか!」とピンと来ましたか?私は来なかったのですが、それって私の理解力が低いだけなんでしょうか・・。
まずもって、定義がハッキリしていないと思いませんか?
「戦略」を考えようとか勉強しようとして本やネットの記事に当たって、まず最初に困るのが、「戦略とは」つまり「戦略の定義」についてスカッと答えが見つからないことではないでしょうか。
みんな好き勝手なこと言ってるのでは?・・と思ってしまう。
答えが見つからないというより、いろんな人がいろんなこと言ってるので、答えがあり過ぎて混乱します。
世界的権威による定義、日本の大家による定義、いろんな学者先生が自分の研究の視点でそれぞれの定義をしています。学者だけでなくコンサルタントなんかも・・、決して好き勝手に言っているわけではないのでしょうが、「コレといった定義が定まっていない」のでそれぞれの考えに基づいてそれぞれに定義をしています。
戦略とは・・「~の方策である」「~のための方向性である」「~のシナリオである」「~の考え方である」「~のプロセスである」・・なんとなく似たようなこと言っているようにも見えますが、「ハッキリしてよ」と言いたくなりませんか?
※ここに「戦略のいろんな定義」をある程度まとめてくれていますので興味あればどうぞ
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/4586
レイヤーもいくつかあるからややこしいことになってる。
話をややこしくしている別の原因は、ひと口に戦略といっても上下いくつかのレイヤー(重なり)があって、それぞれ対象とする範囲が違うことによります。
全社を対象にした「経営戦略」、事業(部)を対象にした「事業戦略」、その他にも営業戦略とかマーケティング戦略などの「機能別戦略」・・上から下へ重なっていて、しかもつながっているようで、「その話はどれのこと?」となってしまいます。
説明の便宜上とは思うのですが、いきなり「経営戦略の下に事業戦略があって・・」というレイヤーの話から始まっている解説もよく見かけます。「んじゃ、『戦略と戦術』の関係との違いは?」とかツッコんでいるうちに、「戦略とは」を探していたこと自体を忘れてしまいそうになります。
見失いそう・・
それより、「出来上がり」のカタチが見えないと思いませんか?
「定義がよく分からない」ことの次に困るのは「戦略の出来上がり」のカタチが分からないことです。
「こんな風なことを示せば戦略ができる」という「アウトプット」のイメージがどうにもピンと来ないのです。
書き表したものが見当たらないんですけど?
「戦略」は「策定」するもののようですから、あれこれ考えて定めるわけです。定めたのなら何らか書き表されてもよさそうなものですが、「戦略はこう書き表す」という説明がいくら探してもなかなか見つかりません。
「ビジョン」「目標」「現状分析」ぐらいまでは「書き表し方」もイメージできるのですが、問題はそこからです。
「現状分析」の話はよく出てくるけどその先は?
「戦略についての解説」といえば「戦略フレームワーク」がやたら出てきます。「SWOT分析」などです。
それらのフレームでこってり分析したところで、残念ながらそれだけではまだ「戦略」が湧いてきたりはしません。ウチの会社のダメさ加減が分かるぐらいです。
現状分析したら、次は「分析に基づく戦略のつくり方」じゃないの?
さあ次はいよいよ「分析結果に基づいて、戦略をこんな風につくりましょう」という説明になるかと思いきや、たいがい「戦略類型」の話になります。
しかも、いまだに「マイケル・ポーターの3類型」の説明だけで済まされたりしています。
いえ、べつにポーター先生を悪く言うつもりはないんです。むしろ未だにこの論を超えるものが出ていない(少なくともネットで検索上位を占める程度には)ということですから、偉大であることは疑いようもありません。
たぶん、解説記事を書いている人が「戦略ってこんなもの」というイメージが「ない」か「ハッキリしてない」んだと思います。なので、大家の論を持ち出してサラっと済ませることになっているのかと。
そんなことがずっと続くことで、「戦略の解説とはこういうもの」というステレオタイプが出来上がってしまったのかもしれませんね。
「戦略類型」はあくまで「類型」であって「戦略」そのものじゃない。
「なんかパッとしないなぁ」とか思いながら現状分析してみて、そんな中でもなんとか使えそうな強みや環境状況を把握して・・で、出てくる答えが
ウチは「差別化戦略」でいくからね!
って、そんなんで「戦略が示された」とはさすがに言えないですよね。
その程度なら俺でも言えるし
でも、「じゃあ、そこから何を表していけばいい?」と疑問に思っても、「個々の企業の状況による」ということでなかなか具体的には説明されません。
【急に「計画」に話が飛ぶ】
たまに目にするんですが、「戦略の解説」かと思いきや、急に(私には急に見えるんですが)「計画」の話になったりするケースもあります。「戦略を実行に移すための計画を・・」とかいって「戦略はどんな風に書き表すか」というところを華麗に跳躍して(すっ飛ばして)、とっとと話が先に進んでしまいます。
「戦略」と「計画」はよく似ているように思うのですが、やっぱり別のものですよね。
「考え方」だけじゃなくて、欲しいのは「書き表し方」
類型の中から「差別化戦略」を採ると決めたとして、せめて「差別化のポイントの書き表し方」とかを説明してほしいですよね。
「考え方」はある程度分かったとします。でも戦略を策定する立場、戦略というものを学ぼうという立場の者とすれば、「どう表すか」が分からないと具体的なイメージがしにくいんです。
だから「カタチ」が欲しいんですが、それがなかなか見当たりません・・。
「事例」もあんまりアテにできないと思いませんか?
戦略の解説が「考え方」だけじゃイメージしにくいワケですが、中にはちゃんと具体的な話を載せてくれているケースもあります。「こういう状況に対して、この企業はこんな戦略を採った」というふうに。
そう、「事例」というカタチで。
ある企業の「成功事例」や「失敗事例」をもとにして、なぜ上手くいったか、なぜ下手を打ったかなどを説明してくれます。
同じ企業の話が何度も出てくる。
素朴な印象として、戦略論で取り上げられるのって同じ企業の話が多いと思いませんか?
世界的大企業でも国内企業でも、何度も同じ話が出てきますよね・・。
誰かが研究したものを引用また引用するから当然そうなる
経営学の大先生が大企業を題材に研究して発表したことを、みんなで内容を引用しまくっているんですから、「事例」として何度も出てくるのは当たり前です。
学者先生だってあんまり知られていない会社のことを題材にするより、有名企業のことを研究して論文にした方がウケがよいので、まあそうなるのももっともです。
ポイントだけになる。
「事例」は、成功したその企業の「上手かったやり方」や「先見の明」、失敗した企業の「見当違い」や「旧弊(昔からの悪い習慣)」なんかがあれやこれやとなかなかにドラマティックな物語調のネタとして語られるので、話の一つ一つには「なるほどねぇ、そういうことだったんだぁ!」と納得したり(時には感動したり)もするものです。
でも、やはりそれだけでは「戦略をどうつくればいい」という疑問の答えにはなりません。「事例」は結果の分かった過去のことを所詮は「外野」があれこれ言っているだけです。言及されるのは「話しとして面白いポイント」だけ、要するにネタとして面白いところだけになります。
さらに、ベースになる研究や文献の概略を抜き出した「2次的な解説文書」が書かれ、それを読んだ人がさらにコンパクトにして「3次的なネット記事」を書いたりするものですからますます「ポイントだけ」になってしまうようです。
劣化版ってことねw
どうしてさっきからそんなエラソーなわけ?
「戦略」ってホントにどこかにあるの?(実はないんじゃない?)
「戦略をどうつくるか、表すか」を知りたくても、「戦略の定義」はハッキリしませんし、「出来上がりのカタチ」はよく分からないですし、「事例」もアテになりません。
さてどうしましょうか。
ここでふと「ある疑念」が浮かびませんか?
そもそも「戦略」って実体のあるもの?(ホントはないんじゃ?)
実際のところどうなんでしょう。
「『戦略』として表現されたもの(文書とか図とか)」があれば(例示されるだけでも)実在の手掛かりになるのですが・・。
そもそも簡単にバラすもんじゃないし表に出したりもしない
まず、一般的に「戦略のアウトプットが見当たらない」のは、企業にとってそれがトップシークレットであり、表に出すようなものではないからです。
勝負事をする際、事前に作戦をバラすような真似はしませんよね。
事後でも「実はこんな戦略でした~」とかわざわざ言うこともないです。だからそもそもそう簡単に表に出るようなものではないということです。
ただ表に出ることもあって、それは次のようなケースです。
公開企業のIR情報
株式上場企業などの「公開企業」は、「IR=Investor Relations」つまり投資家のための情報開示の一環として「中期経営計画」を公表することが多いです(必須ではありませんがほとんどの公開企業が公表しています)。
IRの必要性について詳しい説明は省略しますが、「株式を買ってもらう(投資してもらう)んだから、会社のこれまでの成績だけじゃなくて、今後の方針なんかも知らせなさい」という趣旨です。
中期経営計画は中期的な経営戦略に基づいてつくられるので、戦略に関する情報としては一番豊富にあるはずです。
でも、中期経営計画は「財務諸表」のように形式が決められていません。つまり各企業の自由裁量となっています。どんな形で書くか、どこまでの情報を書くかはそれぞれに任されています。
となると、「戦略」の内容は定量(数値)情報や定性情報から読み取ることが必要になります。つまり「分かりにくい」という状況は何ら変わりません。
事後の研究
上述しましたが、華々しい成功や教訓的な失敗があった場合は、事後に学者等の第三者によって分析がなされ「こういう戦略だった」と論じられることがあります。
でも仮に分析対象になったとしても、「はい、その通りでした」とか「いや、そうではなかったです」と当事者からの「証言」があるわけでもないですから、ホントのところは分かりません。(まあ、成功事例なら取材に対して「そんなカンジで考えてた」ということもあるかもしれませんが。)
いずれにせよ、そんなのは一握りの事例であって、ほとんどは事後であっても明らかになるものではありません。
外に出せないなら、社内にあるのでは?
では、「外に出せない」内容でも、社内では「戦略」を共有する必要があるので内部的には具体的に知らせるでしょうか。
内部の人間も信用できないから配らない
それもどうでしょう・・詳細を文書にして配布すると、誰かが漏らしてライバルの手に渡ってしまうかもしれません。
となるとますます「戦略として表された書面」の存在が疑われることになりそうですがどうでしょうか。
ホントにないのかも・・
一握りの人たちは知っているはず
内部にあるとするなら、役員会議などで社長が役員に対して方針を伝える際にそれらしき資料は出てくるかもしれません。
ですが、そんな資料は極秘中の極秘ですから部外者が知ることはまずありません。
あったとしてもカタチにはこだわっていないはず
「戦略」は社長が策定し決断するとして、社長が役員に伝える際にはおそらく「戦略とはこういう風に表す」とか、そんなにカタチにこだわることはないと思います。
必要なこと、例えば「新しく大きな投資が必要な事業展開」とか「大幅な組織改編」とかを「経営方針」に沿って伝えることができれば、べつに形式はどうでもいいわけです。
ということは、結局のところ企業の「戦略」は「実際はあるけど表に出てこない」「これといった形式を持たない」ものということになります。
なぜ「戦略」というものが分かりにくいか・・まとめ
「戦略がよく分からない理由」を考えてきましたが、次のようにまとめられます。
説明が分かりにくいから「戦略」が分かりにくい
「戦略」とは何か、どんなものか・・の説明が分かりにくい理由
- 定義がいろいろあるから分かりにくい
・コレといった定義がない
・それぞれ好きなように定義している
- 出来上がりのカタチがハッキリしないから分かりにくい
・分析とか戦略類型に説明が終始している
・書き表し方を説明していない
- 事例がアテにならない
・事後的にポイントの説明だけ
そもそも表に出ないからイメージしにくい
「戦略」が表に出てこない理由
- 企業にとって極秘事項だから
・事前にバラすわけがない
・事後にもわざわざ言うことはない
- 内部でも共有されないから
・漏らされる恐れがあるので配らない
・一握りの役員クラスだけで共有
=部外者が知ることはない
じゃあ、どうすればいい?
「説明が分かりにくい」「表には出てこない」では「戦略」というものを考えたり表したりするのに困りますよね。
どうすればいいんでしょうか。
「決まってないし分かりにくい」なら、簡単なことです。自分で決めちゃえばいいんです!
To be continued!お話しは続きます